形式論理学についての解説の記事です。
論証は論理的な関係を利用して、ある命題から別の命題を導き出すプロセスです。本記事では、論証の手法や妥当性、健全性、さらに数学における具体的な応用について考察します。
論証とは?
論証とは、ある命題 \(A\) から論理的な方法によって別の命題 \(B\) を導き出すプロセスです。論証において、前提となる命題が与えられ、その前提を基にして結論が導かれます。論証は形式論理学における基本的な概念であり、命題の真偽を体系的に証明するための手法です。
論証の例
例えば、「すべての人間は死ぬ」という命題を前提にして、「ソクラテスは人間である」ことを認めると、「ソクラテスは死ぬ」という結論を導き出すことができます。
- 前提1: すべての人間は死ぬ
- 前提2: ソクラテスは人間である
- 結論: ソクラテスは死ぬ
このように、前提と結論の間に論理的な関係が成り立っていることを論証といいます。
論証手法(証明手法)
論証にはさまざまな手法があり、主に「直接証明」と「間接証明」に分けられます。これらの手法は、命題を論理的に証明するために用いられるものです。
直接証明
直接証明は、前提となる命題から直接的に結論を導き出す方法です。この手法は、与えられた仮定をもとに、論理的なステップを踏んで命題の真偽を証明します。
直接証明の例
例えば、次の命題を証明します。
命題: 雨が降っているならば、地面は濡れている。
- 前提: 雨が降っている。
- 証明: 論理的因果関係。雨が降っていると、雨滴が地面に落ちる。雨は水滴であり、地面に落ちると、地面を濡らす。
- 結論: 地面は濡れている。
このように、前提を直接用いて命題を証明するのが直接証明です。
間接証明
間接証明は、結論が真であることを直接示すのではなく、結論が偽であると仮定して矛盾を導くことで結論が真であることを証明する手法です。この中には、背理法や対偶法といった方法が含まれます。
背理法
背理法は、結論が偽であると仮定し、その結果として矛盾が生じることを示すことで結論が真であることを証明する方法です。
背理法の例
命題: 彼を駅前で見かけたなら、彼は学校にはいなかった。
- 仮定: 彼を駅前で見かけたなら、彼は学校にいた、と仮定します。
- 証明: 彼が学校にいたなら、通常は校舎内か敷地内にいることになり、駅前にはいません。
- したがって、彼を駅前で見かけることは不可能で、矛盾が生じました。
- 彼を駅前で見かけたなら、彼は学校にいなかった、という仮定が適切でなかったことになり、したがって、彼を駅前で見かけたなら、彼は学校にいなかった、という命題が証明されました。
対偶法
対偶法は、元の命題の対偶(命題の否定と逆)を証明することで、元の命題の真偽を証明する手法です。対偶命題は元の命題と常に同値です。
対偶法の例
命題: 彼が勉強していなかったら、資格試験に合格しなかった。
- 対偶命題: 彼が資格試験に合格したなら、彼は勉強していた。
- 証明: ふつう、資格試験に合格するには、勉強しなければなりません。したがって、彼が資格試験に合格したということは、それに見合う勉強をしていたことになります。彼が資格試験に合格したなら、彼は勉強していた、という対偶命題が成り立つため、元の命題も成り立ちます。
論証の妥当性と健全性
論証には妥当性と健全性という重要な規準があります。これらの概念は、論証が論理的に正しいかどうか、そしてその論証に用いられている前提が現実に正しいかどうかを評価するために用いられます。
論証の妥当性
妥当性とは、前提がすべて真であると仮定したときに、論理的に結論が必ず真であることを指します。妥当な論証では、前提から結論が論理的に導かれますが、前提が現実に正しいかどうかは問いません。
論証が妥当であり、前提も結論も真である例
- 前提 1: すべての哺乳類は脊椎動物である。
- 前提 2: 犬は哺乳類である。
- 結論: したがって、犬は脊椎動物である。
この論証は妥当です。形式的に正しく、前提 1 と前提 2 がどちらも真であるため、結論「犬は脊椎動物である」も真になります。
論証が妥当だが、前提が偽である例
- 前提 1: すべての鳥は哺乳類である。(偽)
- 前提 2: ペンギンは鳥である。(真)
- 結論: したがって、ペンギンは哺乳類である。(偽)
この論証は妥当です。形式的には正しく、前提 1 と前提 2 から論理的に結論が導かれています。しかし、前提 1 が偽であるため、結論も偽となります。それでもこの論証の形式は正しいため、論証自体は妥当です。
論証が妥当でない例
- 前提 1: すべての魚は海に住んでいる。
- 前提 2: イルカは海に住んでいる。
- 結論: したがって、イルカは魚である。
この論証は妥当ではありません。前提 1 と前提 2 はどちらも真であるかもしれませんが、結論「イルカは魚である」は前提から論理的に導かれません。したがって、形式的に誤った論証であり、妥当ではありません。
論証の健全性
健全性は、論証が妥当であることに加えて、その前提がすべて現実的に真であることを意味します。健全な論証は、前提が現実に真であり、かつ結論も真であることを保証します。
数学における論証
数学では、厳密な論証が非常に重要です。数学的な論証は、特定の命題を証明するために論理的な手法を駆使します。
数学における論証の例
命題: \(n\)が整数であるとき、\(2n\) は偶数である。
- 前提: \(n\) は整数である。
- 証明: \(2n\) は \(2\) で割り切れるため、偶数である。
数学における直接証明の例
命題: \(2\)つの偶数の和は偶数である。
- 前提: \(a\) と \(b\) は偶数である。
- 証明: \(a=2k\)、\(b=2m\)、\(k\)と\(m\)は整数 とすると、\(a+b=2k+2m=2(k+m)\)。よって、和は偶数である。
数学における間接証明の例
背理法の例
命題: \(2\)の正の平方根は無理数である。
証明:
- 仮定:\(\sqrt{2}\)が無理数であるという命題を証明するために、逆の仮定を立てます。
- 仮定:\(\sqrt{2}\)は有理数である。
- すなわち、\(\sqrt{2}\)を有理数として表せると仮定します。これは、次のような形に書けることを意味します:
- 平方して両辺の二乗を取ります:\(2 = \frac{p^2}{q^2}\)両辺に \(q^2\) を掛けると、\(p^2 = 2q^2\)となります。これは、\(p^2\)が偶数であることを意味します。なぜなら、\(2q^2\)は\(2\)の倍数、つまり偶数だからです。
- pが偶数であることを示します:
- \(p^2\)が偶数であるなら、\(p\)も偶数でなければなりません。なぜなら、奇数の二乗は奇数になるためです。
- したがって、\(p\)は偶数です。これを \(p = 2k\) と表すことができます(\(k\)は整数)。
- \(p = 2k\) を式に代入します:\((2k)^2 = 2q^2(2k)\)つまり、\(4k^2 = 2q^2\)両辺を\(2\)で割ると、\(2k^2 = q^2\)これにより、\(q^2\)も偶数であることがわかります。したがって、\(q\)も偶数でなければなりません。
- \(p\)と\(q\)がともに偶数であることが矛盾を生じる:
- ここで、\(p\)と\(q\)がともに偶数であることがわかりました。しかし、これは最初の仮定「\(p\)と\(q\)は互いに素である」に矛盾します。なぜなら、\(p\)と\(q\)が偶数であれば、それらは\(2\)の倍数であり、互いに素ではなくなるからです。
- 結論: この矛盾から、最初の仮定「\(\sqrt{2}\)は有理数である」は誤りであることがわかります。したがって、\(\sqrt{2}\)は無理数であることが証明されました。
対偶法の例
命題: \(n^2\) が奇数ならば、\(n\) も奇数である。
対偶法を使って、 \(n\) が偶数であれば \(n^2\) も偶数であることを示し、元の命題の正しさを証明します。
「\(n^2\) が奇数ならば、\(n\) も奇数である」
対偶法を使うため、この命題の対偶を証明します。
対偶:
「 \(n\) が偶数ならば、\(n^2\) も偶数である」
この対偶が真であることを証明すれば、元の命題も真であることが証明されます。
証明:
- 仮定:\(n\) が偶数であると仮定します。
- つまり、\(n = 2k\) (\(k\) は整数)と表せます。
- \(n^2\) を計算します:\(n^2 = (2k)^2 = 4k^2 = 2(2k^2)\)これにより、\(n^2\) は \(2\) の倍数、つまり偶数であることがわかります。
- 結論:
- 仮定「\(n\) が偶数である」から、結論「\(n^2\) も偶数である」が導かれました。
- したがって、対偶「 \(n\) が偶数ならば、\(n^2\) も偶数である」が成り立ちます。
この対偶が真であるため、元の命題「 \(n^2\) が奇数ならば、\(n\) も奇数である」も真であることが証明されました。
数学における論証の妥当性の例
命題: 「すべての自然数 \(n\) に対して、\(n+1\) は自然数である。」
この論証は、自然数の定義に基づいて妥当です。
数学における論証の健全性の例
同じ命題「すべての自然数 \(n\) に対して、\(n+1\) は自然数である。」は、妥当であるだけでなく、自然数の性質に基づいて正しいため、健全な論証です。
参考文献
参考文献を紹介します.
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野矢茂樹著,『論理学』
長岡亮介著,『論理学で学ぶ数学』