数学の学び直しのための記事です.
本記事では,命題論理の条件法と同値について考察します.
条件法
条件法とは,命題\(A\)ならば命題\(B\),ということです.
たとえば,「\(24\)が\(6\)の倍数であるならば,\(24\)は\(3\)の倍数である」などの命題です.
「\(24\)は\(6\)の倍数である」という命題\(A\)と,「\(24\)は\(3\)の倍数である」という命題\(B\)を用いて,上記の命題は\(A \Rightarrow B\)と書きます.
命題\(A\)を条件節,命題\(B\)を帰結節といいます.
上記の例では,\(A \Rightarrow B\)は真ですので,\(〚A \Rightarrow B〛=1\)です.
「\(15\)は\(3\)の倍数である」という命題\(C\)と,「\(15\)は\(6\)の倍数である」という命題\(D\)を考えますと,\(C\)は真で\(D\)は偽,\(C \Rightarrow D\)は偽ですので,\(〚C \Rightarrow D〛=0\)です.
それでは,条件節,すなわち上記の例では\(C\)の命題が偽の場合はどうなるのでしょうか?
日常の例をとりあげますと,日常で条件法といえば,天候がもっとも想起しやすいですよね.
「明日晴れならば,散歩に出かける」という命題を考えてみましょう.
実際に,明日が晴れで散歩に出かければ真ということになり,晴れたのに散歩に出かけなかったら偽ということになります.
では,雨だったらいかがでしょう?
日常の感覚では,真とも偽とも言えないですよね.
雨の場合についての言及がありませんから.
ですが,命題論理においては,雨の場合は散歩に出かけようが出かけまいが真とします.
言い換えると,条件節が偽の場合は、帰結節の真偽によらず真です.
条件法の真理表は下記の通りになります.
\(A\) | \(B\) | \(A \Rightarrow B\) |
1 | 1 | 1 |
1 | 0 | 0 |
0 | 1 | 1 |
0 | 0 | 1 |
\(A \Rightarrow B\)は,\( \lnot \)と\( \lor\)で表すことができます.
\(\lnot A\lor B\)の真理表は下記の通りとなり,\(〚A\Rightarrow B〛=〚\lnot A\lor B〛\)となります.
\(A\) | \(B\) | \(\lnot A\) | \(\lnot A \lor B\) |
1 | 1 | 0 | 1 |
1 | 0 | 0 | 0 |
0 | 1 | 1 | 1 |
0 | 0 | 1 | 1 |
同値
同値とは,命題\(A\)と命題\(B\)が同等,同一である,ということです.
たとえば,「正の整数\(n\)は,\(m\)を正の整数として\(n=2m-1\)と表される」という命題\(A\)と「正の整数\(n\)は奇数である」という命題は同一です.
これを,\(A\Leftrightarrow B\)と書きます.
命題が同一とはいえ,命題\(A\)と\(B\)の表現の仕方が違う場合があります.
それゆえ,数学では同値であるような式の変形が重要であるわけです.
たとえば,「実数\(x\)は\(6x^2-11x+3=0\)を満たす」という命題は,この表現ではこの命題を満たす\(x\)は分かりにくいのですが,「実数\(x\)は\((2x-3)(3x-1)=0\)を満たす」という命題は\(x=3/2 or 1/3\)と分かりやすいです.
二つの命題\(A\),\(B\)が同一,ということは,\(A \Rightarrow B\)であると同時に,\(B \Rightarrow A\)である,ということです.
すなわち,\((A \Leftrightarrow B) \Leftrightarrow (A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow A)\)となります.
\(A \Leftrightarrow B\)の真理表は下記の通りとなります.
\(A\) | \(B\) | \(A \Leftrightarrow B\) |
1 | 1 | 1 |
1 | 0 | 0 |
0 | 1 | 0 |
0 | 0 | 1 |
\(A \Leftrightarrow B\)も\(\lnot\) ,\(\land\) ,\(\lor\) で表すことができます.
\(A \Leftrightarrow B\)の真理値が\(1\)である場合に着目すると,\(A\)と\(B\)の真理値が共に\(1\)である場合と共に\(0\)である場合です.
したがって,\((A \Leftrightarrow B) \Leftrightarrow (A \land B) \lor (\lnot A \land \lnot B)\)となります.
あるいは,\((A \Leftrightarrow B) \Leftrightarrow (A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow A)\)であり,\(A \Rightarrow B \Leftrightarrow \lnot A \lor B\)ですから,\((A \Leftrightarrow B) \Leftrightarrow (\lnot A \lor B) \land (\lnot B \lor A)\)ともかけます.
否定・逆・対偶
条件法\(A \Rightarrow B\)において,\(\lnot A \Rightarrow \lnot B\)を裏といいます.
真理値分析をすると以下のようになります.
\(A\) | \(B\) | \(\lnot A\) | \(\lnot B\) | \(\lnot A \Rightarrow \lnot B\) |
1 | 1 | 0 | 0 | 1 |
1 | 0 | 0 | 1 | 1 |
0 | 1 | 1 | 0 | 0 |
0 | 0 | 1 | 1 | 1 |
\(B \Rightarrow A\)を逆といいます.真理値分析は下記のようになります.
\(A\) | \(B\) | \(B \Rightarrow A\) |
1 | 1 | 1 |
1 | 0 | 1 |
0 | 1 | 0 |
0 | 0 | 1 |
\( \lnot B \Rightarrow \lnot A\)を対偶といいます.真理値分析は次の通りです.
\(A\) | \(B\) | \( \lnot A\) | \(\lnot B\) | \(\lnot B \Rightarrow \lnot A\) |
1 | 1 | 0 | 0 | 1 |
1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
0 | 1 | 1 | 0 | 1 |
0 | 0 | 1 | 1 | 1 |
\( \lnot B \Rightarrow \lnot A\)の真理値は\( A \Rightarrow B\)と等しくなることがわかります.つまり,もとの条件法とその対偶は同値です.
$$ A \Rightarrow B \Leftrightarrow \lnot B \Rightarrow \lnot A $$
必要条件と十分条件
\(A \Rightarrow B\)が真であるとき,\(B\)を\(A\)の必要条件といい,\(A\)を\(B\)の十分条件といいます.
\(A \Rightarrow B\)が偽のときは,それぞれは必要条件でも十分条件でもありません.
\(A \Leftrightarrow B\)が真であるときは,\(A\)は\(B\)の必要十分条件であるといい,\(B\)は\(A\)の必要十分条件であるといいます.
ある命題が必要条件かどうか,十分条件かどうかを問われるときは,命題が真でないといけませんので,そのチェックが必要です.
命題の真理値が等しいならば命題は同値
\(A \Leftrightarrow B\)の真理表を見てみますと,\(〚A〛=〚B〛\)のとき\(A \Leftrightarrow B\)は真,\(〚A〛\ne〚B〛\)のとき\(A \Leftrightarrow B\)は偽となります.
したがって,ある二つの命題\(A\),\(B\)が同値かどうかを調べる一つの方法として,命題\(A\),\(B\)の真理値を求めて比較する方法があります.
この方法では,命題の内容について一切触れることなく行われますので,形式的な方法であるといえます.
問題
問題1
以下の命題の真偽を答えよ.
(1) 実数\(x\)に対して,\(x>2\)ならば\(x^2+x-6<0\)である.
(2) 正の整数\(n\)に対して,\(n^2-2n-3<0\)ならば\(n=1 \,or\, 2\)である.
解答例
(1) 問題の命題を\(A\)とする.\(x^2+x-6<0\)は\((x-2)(x+3)<0\)と同値変形でき,\(-3<x<2\)と同値.\(x>2\)が真である場合は\(x^2+x-6<0\)は偽,\(x>2\)が偽である場合,\(x=2\)である場合は\(x^2+x-6<0\)は偽,\(-3<x<2\)である場合は\(x^2+x-6<0\)は真,\(x≦-3\)である場合は\(x^2+x-6<0\)は偽.以上より,命題\(A\)は偽である.
(2) 問題の命題を\(A\)とする.\(n^2-2n-3<0\)は\((n-3)(n+1)<0\)と変形でき,\(-1<n<3\)であるから,この不等式を満たす正の整数は\(1\)か\(2\)である.この不等式を満たさない場合は\(n=3\)のとき\((n-3)(n+1)=0, n=4, 5, \dots \)のとき\((n-3)(n+1)>0\).したがって,命題\(A\)は真である.
問題2
以下の二つの命題は同値か?
正の整数\(n\)は\(4\)で割った余りが\(1\)である,正の整数\(n\)を四進法で表すと末位の数は\(1\)である.
解答例
二つの命題を以下のように名付ける.\(A:\)正の整数\(n\)は\(4\)で割った余りが\(1\)である,\(B:\)正の整数\(n\)を四進法で表すと末位の数は\(1\)である.①\(A \Rightarrow B\)に関して.命題\(A\)を満たす正の整数\(n\)は\(k\)をある正の整数として\(4(k-1)+1\)とかける.この数を四進法であらわすと末位は\(1\)である.②\(B \Rightarrow A\)に関して.命題\(B\)を満たす正の整数\(n\)は\(k_1, k_2, \dots \)をある\(0\)以上\(3\)以下の整数として\(1+k_1・4+k_2・4^2+\dots \)とかける.これは\(4(k_1+k_2・4+\dots )+1\)と変形できる.これは\(4\)で割った余りが\(1\)であることを示している.以上①②より,命題\(A\)と\(B\)は同値である.
問題3
以下の文章は正しいか?
(1) \(a<-5\)か\(0<a\)であることは,二次方程式\(x^2+2ax-5a=0\)が異なる二つの実数解をもつための十分条件であり,必要条件ではない.
(2) 二つの三角形において,二辺とその挟角が等しいことは,これらの三角形が合同であるための必要条件であり,十分条件ではない.
(3) \(0\)ベクトルでない二つのベクトル\(\boldsymbol a\)と\(\boldsymbol b\)の内積が\(0\)であることは,この二つのベクトルが直交するための必要十分条件である.
解答例
(1)二次方程式\(x^2+2ax-5a=0\)の判別式\(D\)は,\(D=(2a)^2-4・1・(-5a)=4a^2+20a=4a(a+5)\)である.\(a<-5\)か\(0<a\)であれば\(D>0\)であり二次方程式は異なる二つの実数解をもつ.逆に,二次方程式が二つの異なる実数解をもつのであれば\(D>0\)であり\(a<-5\)か\(0<a\).したがって,\(a<-5\)か\(0<a\)であることは二次方程式が異なる二つの実数解をもつための必要十分条件である.それゆえ,問題の文章は正しくない.
(2)二つの三角形において,二辺とその挟角が等しいならば,これらの三角形は合同である.逆に,二つの三角形が合同であるとき,それらの二辺とその挟角が等しい.したがって,二辺とその挟角が等しいことは,二つの三角形が合同であることの必要十分条件である.それゆえ,問題の文章は正しくない.
(3)\(0\)ベクトルでない二つのベクトル\(\boldsymbol a\)と\(\boldsymbol b\)の内積が\(0\)であるとき,\(\boldsymbol a\)と\(\boldsymbol b\)は直交する.逆に,\(\boldsymbol a\)と\(\boldsymbol b\)が直交するとき,\(\boldsymbol a\)と\(\boldsymbol b\)の内積は\(0\)である.したがって,\(0\)ベクトルでない二つのベクトル\(\boldsymbol a\)と\(\boldsymbol b\)の内積が\(0\)であることは,この二つのベクトルが直交するための必要十分条件である.それゆえ,問題の文章は正しい.
問題4
以下の命題の真偽を調べよ.
(1) \(\lnot A \Rightarrow \lnot (\lnot A)\)
(2) \(((A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)) \Rightarrow (A \Rightarrow C)\)
(3) \( \lnot (A \land B) \Leftrightarrow \lnot A \lor \lnot B\)
(4) \(\lnot (A \lor B) \Leftrightarrow \lnot A \land \lnot B\)
解答例
(1)\(\lnot A \Rightarrow \lnot (\lnot A)\)の真理表は以下の通り.
\(A\) | \(\lnot A\) | \(\lnot (\lnot A)\) | \(\lnot A \Rightarrow \lnot (\lnot A)\) |
1 | 0 | 1 | 1 |
0 | 1 | 0 | 0 |
(2)\( ((A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)) \Rightarrow (A \Rightarrow C)\)の真理表は以下の通り.
\(A\) | \(B\) | \(C\) | \(A \Rightarrow B\) | \(B \Rightarrow C\) | \((A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)\) |
1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
1 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 |
1 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 |
1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 |
0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 |
0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 |
0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 |
\((A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C)\) | \(A \Rightarrow C\) | \((A \Rightarrow B) \land (B \Rightarrow C) \Rightarrow (A \Rightarrow C) \) |
1 | 1 | 1 |
0 | 0 | 1 |
0 | 1 | 1 |
0 | 0 | 1 |
1 | 1 | 1 |
0 | 1 | 1 |
1 | 1 | 1 |
1 | 1 | 1 |
真理値が原子命題の真偽に関わらず1である分子命題を恒真命題あるいはトートロジーという.
上記は命題論理における推移律である.
(3) \( \lnot (A \land B) \Leftrightarrow \lnot A \lor \lnot B \)の真理表は以下の通り.
\(A\) | \(B\) | \(A \land B\) | \( \lnot (A \land B)\) |
1 | 1 | 1 | 0 |
1 | 0 | 0 | 1 |
0 | 1 | 0 | 1 |
0 | 0 | 0 | 1 |
\( \lnot A\) | \( \lnot B\) | \( \lnot A \lor \lnot B\) | \( \lnot (A \land B) \Leftrightarrow \lnot A \lor \lnot B\) |
0 | 0 | 0 | 1 |
0 | 1 | 1 | 1 |
1 | 0 | 1 | 1 |
1 | 1 | 1 | 1 |
この関係はド・モルガンの法則とよばれる.
(4) \( \lnot (A \lor B) \Leftrightarrow \lnot A \land \lnot B \)の真理表は以下の通り.
\(A\) | \(B\) | \(A \lor B\) | \( \lnot (A \lor B)\) |
1 | 1 | 1 | 0 |
1 | 0 | 1 | 0 |
0 | 1 | 1 | 0 |
0 | 0 | 0 | 1 |
\( \lnot A\) | \( \lnot B\) | \( \lnot A \land \lnot B\) | \( \lnot (A \lor B) \Leftrightarrow \lnot A \land \lnot B\) |
0 | 0 | 0 | 1 |
0 | 1 | 0 | 1 |
1 | 0 | 0 | 1 |
1 | 1 | 1 | 1 |
この関係もド・モルガンの法則とよばれる.
参考文献
形式論理学に関する参考文献を以下に挙げます.
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野矢茂樹著,『論理学』
長岡亮介著,『論理学で学ぶ数学』
赤攝也著,『現代数学概論』