マインドフルネスのススメ【和の深層➀】

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このシリーズ《和の深層》では、マインドフルネスから始まり、日本人の精神文化の源泉へと降りていきます。
本記事はその第一歩、「呼吸」という最も原初的な行為に立ち返ることで、心と体、そして存在の深みを見つめ直す入り口です。

現代は、情報や刺激にあふれた時代。
気づかぬうちに、私たちの呼吸は浅く、早くなっていることがあります。
まずは、ひと息。深呼吸をしてみましょう。

  1. マインドフルネスの入り口としての「深呼吸」
  2. 自律神経を整える——副交感神経優位の状態へ
    1. 自律神経系とは何か?
    2. 深呼吸と自律神経の関係
      1. なぜ深呼吸が副交感神経を優位にするのか?
    3. 深呼吸の実践例(マインドフルネスに基づく)
      1. 4-7-8 呼吸法(アメリカの医師アンドリュー・ワイル博士が提唱)
    4. マインドフルネスにおける呼吸の意義
  3. セロトニン分泌を促し、「幸せホルモン」が働く
    1. セロトニンとは何か?
    2. セロトニンと自律神経の関係
    3. 深呼吸がセロトニン分泌を促す仕組み
      1. ポイント①:リズミカルな運動がセロトニン神経を活性化
      2. ポイント②:副交感神経優位→セロトニン分泌促進
    4. セロトニンがもたらす具体的な効果
      1. 不安の軽減・うつの予防
      2. 睡眠の質向上
      3. 集中力・意欲の回復
    5. 深呼吸+セロトニン活性化の実践例
  4. 血流が豊かになり、体の修復が促進される
    1. 深呼吸が身体の修復を促すメカニズム
      1. 副交感神経が優位になることで血管が拡張する
      2. 酸素供給の効率が上がる
      3. リンパの流れも促進される
    2. 脈のスキャニング(pulse scanning)の活用
      1. 脈スキャニングの意義:
      2. 実践のヒント:
  5. 思考を手放し、「存在」そのものへと意識を向ける
    1. 深呼吸による「思考の手放し」と「存在への回帰」
      1. マインドフルネス:いまここに意識を向ける
      2. 深呼吸:思考から身体へ、そして沈黙へ
      3. 瞑想:存在への集中と統合
      4. 禅:無為自然の境地へ
  6. 参考文献

マインドフルネスの入り口としての「深呼吸」

マインドフルネスとは、「今、ここ」に意識を向ける練習です。
その最初の一歩としておすすめなのが、「深呼吸」。
道具も場所もいりません。
ちょっとした休憩の時間に、静かに目を閉じて、自分の呼吸に意識を向けてみましょう。

自律神経を整える——副交感神経優位の状態へ

ゆっくりと深く呼吸をすることで、交感神経の高ぶりが落ち着き、副交感神経が優位になります。
これは体の「休息モード」。心拍が落ち着き、血圧も下がり、リラックスした状態に入ります。

自律神経系とは何か?

まず前提として、自律神経系は人間の無意識的な身体機能をコントロールしている神経系であり、以下の2つの主要な系統からなります:

  • 交感神経系(活動・緊張・戦闘モード)
  • 副交感神経系(休息・回復・リラックスモード)

通常、我々が活動している日中は交感神経が優位になりやすく、夜や休息時には副交感神経が優位になります。マインドフルネスや深呼吸は、この副交感神経系を意識的に活性化させることを目的の一つとしています。


深呼吸と自律神経の関係

深呼吸は、自律神経の中でも特に副交感神経を活性化することができる、数少ない「意識的にできる」調整手段です。

なぜ深呼吸が副交感神経を優位にするのか?

  1. 呼吸と自律神経は双方向でつながっている
    • 通常、自律神経は自動的に働くものですが、「呼吸」だけは自律神経が支配しつつも、自分の意志で調整できるという特性があります。
    • 呼吸をゆっくりにすると、脳や体が「今は緊急状態ではない、安全だ」と認識し、交感神経の緊張を抑え、副交感神経が働き出します。
  2. 呼気(息を吐く)で副交感神経が優位になる
    • 深呼吸の際、特に**「ゆっくりと息を吐く」こと**が副交感神経を優位にします。
    • 吐く動作は身体に「リラックスしてよい」という合図を与え、心拍数が低下し、筋肉の緊張もほぐれていきます。
  3. 迷走神経(vagus nerve)の刺激
    • ゆっくりと深い呼吸は、副交感神経の中枢である「迷走神経」を直接刺激します。
    • 迷走神経は内臓と脳を結ぶ重要な神経で、これを刺激することで消化、免疫、心拍調整などが副交感神経モードに切り替わっていきます。

深呼吸の実践例(マインドフルネスに基づく)

以下のような呼吸法が、自律神経のバランスを整え、副交感神経を優位に導きます:

4-7-8 呼吸法(アメリカの医師アンドリュー・ワイル博士が提唱)

  1. 息を4秒かけて吸う(鼻で)
  2. 息を7秒間止める
  3. 8秒かけてゆっくり吐く(口で)

→ この呼吸法は、副交感神経優位に切り替える効果が高く、不安の軽減・入眠・ストレス緩和に効果があります。


マインドフルネスにおける呼吸の意義

マインドフルネスでは、深呼吸を「今・ここ」に意識を集中させるための**アンカー(錨)**としても用います。そしてこの呼吸が自律神経に作用することで、身体的な緊張や心理的な不安の緩和が起こります。

「呼吸を整えることで、心が整う。心が整うことで、世界の見え方も整っていく」

セロトニン分泌を促し、「幸せホルモン」が働く

深呼吸は、脳内で「セロトニン」と呼ばれる神経伝達物質の分泌を助けるとも言われています。
セロトニンは、気分を安定させ、前向きな気持ちに導いてくれる、いわば「幸せホルモン」。
落ち込んだ時やイライラした時にも、静かに呼吸するだけで、気持ちが少しずつ和らいでいくのを感じられるでしょう。

セロトニンとは何か?

セロトニンは、脳内で働く神経伝達物質のひとつで、「幸せホルモン」「安らぎホルモン」などと呼ばれます。

主な働きは:

  • 感情の安定(不安・イライラを鎮める)
  • 睡眠の質の向上(メラトニンの材料になる)
  • 姿勢や運動の調整
  • 痛みの緩和
  • 自律神経の調整

セロトニンと自律神経の関係

セロトニンは、脳幹(とくに縫線核:raphe nuclei)に存在する神経細胞から分泌され、自律神経のバランス調整にも深く関わっています。

  • 交感神経の過剰な働きを抑え
  • 副交感神経を安定的に働かせる

つまり、セロトニンは交感神経と副交感神経の**「橋渡し役」**を果たす存在なのです。


深呼吸がセロトニン分泌を促す仕組み

ポイント①:リズミカルな運動がセロトニン神経を活性化

セロトニン神経系は、「一定のリズムで繰り返される運動」によって活性化されることがわかっています。これには以下のような運動が含まれます:

  • ウォーキング(リズム運動)
  • 咀嚼(リズム運動)
  • 呼吸(とくに深呼吸)もリズム運動!

深く吸って、ゆっくり吐く——この一定のリズムが、脳幹にあるセロトニン神経系を刺激し、セロトニンの分泌を促します。


ポイント②:副交感神経優位→セロトニン分泌促進

深呼吸により副交感神経が優位になると、脳と腸が「今は安全だ」と認識し、セロトニンの分泌が中枢神経系腸管神経系の両方で高まります。

  • 腸ではセロトニンの約**90%**が合成されており、「腸脳相関」と呼ばれるように、腸の状態は精神状態と密接に関係しています。
  • 副交感神経が優位になることで、腸の血流が増え、セロトニン産生が促進されるのです。

セロトニンがもたらす具体的な効果

不安の軽減・うつの予防

 → セロトニンの低下は、うつ病やパニック障害の一因とされています。深呼吸によってセロトニンが分泌されることで、感情が落ち着き、思考が安定します。

睡眠の質向上

 → セロトニンは夜間になるとメラトニン(睡眠ホルモン)に変化します。日中に深呼吸や光を浴びてセロトニンを十分に分泌しておくことが、質の高い睡眠をもたらします。

集中力・意欲の回復

 → セロトニンは前頭前野にも作用し、思考の整理・集中力の持続・モチベーションの回復に寄与します。


深呼吸+セロトニン活性化の実践例

  • 朝日を浴びながら深呼吸
    • 朝の自然光はセロトニン分泌をさらに促進します。
    • 起床後に5分間の深呼吸は、1日のメンタルバランスを整えるのに非常に効果的です。
  • 緊張したときにゆっくり深呼吸
    • イライラ・焦り・不安の場面ではセロトニンが急低下するため、深呼吸で即時対応できます。

血流が豊かになり、体の修復が促進される

深く呼吸することで、体内により多くの酸素が取り込まれます。
血流が良くなり、細胞の修復や代謝が促進され、体全体が整っていきます。
まさに「癒し」が、呼吸を通じて始まるのです。

深呼吸が身体の修復を促すメカニズム

副交感神経が優位になることで血管が拡張する

深くゆっくりとした呼吸は、副交感神経を優位に導きます。これにより:

  • 血管が拡張し、末梢への血流が豊かになる
  • 血圧が緩やかに低下し、心拍も安定する

このような循環の改善が、細胞レベルでの酸素・栄養供給を促し、身体の修復・回復を加速します。


酸素供給の効率が上がる

深呼吸により:

  • 肺の換気量が増え、血中酸素濃度が高まる
  • 酸素はミトコンドリアでのエネルギー産生(ATP合成)に必要不可欠

その結果、細胞が活性化し、組織の修復や免疫反応の効率が上がるのです。


リンパの流れも促進される

血流が促進されると同時に、リンパ液の流れもよくなります。これにより:

  • 老廃物の除去が円滑に
  • 炎症の軽減や免疫の正常化が期待できる

身体の自然治癒力が高まり、疲労回復や慢性症状の改善に寄与します。


脈のスキャニング(pulse scanning)の活用

深呼吸中、あるいはその前後に自分の脈(脈拍)を感じ取り、変化を意識的に観察する行為——これが「脈のスキャニング」です。

脈スキャニングの意義:

  • 深呼吸によって脈拍が緩やかになり、規則正しくなる変化を感じることで、副交感神経が働いている証拠を得られる
  • 意識を身体に向けることで**身体感覚(ボディアウェアネス)**が高まり、自己調整力が向上する
  • 脈の変化を観察することで、**呼吸と心拍の連動(RSA:呼吸性心拍変動)**を体感できる

実践のヒント:

  • 手首や首の動脈に指を軽く当てて、脈のリズムを感じながら深呼吸
  • 「吸う:脈がやや速くなる」「吐く:脈がゆっくりする」という自然のリズムに気づく

このように呼吸と脈の変化を観察することで、自律神経の状態をモニターしつつ、より深いリラクゼーションと修復効果が得られます

思考を手放し、「存在」そのものへと意識を向ける

悩み事、過去の後悔、未来の不安……
そんな思考のざわめきを、深呼吸とともに、少しのあいだ手放してみてください。
今ここにある「自分の命」――その静かな鼓動や息づかいに、耳を傾けてみましょう。
あなたは今、生きている。ただそれだけで、十分なのです。

深呼吸による「思考の手放し」と「存在への回帰」

現代人の多くは、過去や未来に囚われ、思考に押し流されるように日々を過ごしています。
しかし、「今ここ」に意識を戻すことで、存在そのものに対する直観的な気づき=生命感覚を取り戻すことができます。
この回帰の入口こそが、深くゆっくりとした呼吸=深呼吸です。


マインドフルネス:いまここに意識を向ける

マインドフルネスとは、「評価・判断を加えずに、今この瞬間の自分の経験に注意を向けること」。

  • 思考や感情に巻き込まれず、ただ観察者としての自己である
  • 身体感覚(呼吸、鼓動、体温、空気感覚など)に注意を向けることで、「存在」に近づく準備が整う

深呼吸:思考から身体へ、そして沈黙へ

深呼吸は、思考の洪水を穏やかに鎮める最初の行為。

  • 息を吸い、吐くという身体の原初的なリズムに意識を重ねることで、思考の流れが自然と緩やかになる
  • 呼吸に集中することで、「思考」から「感覚」へと意識の重心が移動する
  • これにより、「私は存在している」という生の実感に近づく

この状態は、古来より「いのちの直観」「沈黙の智慧」とも呼ばれてきました。


瞑想:存在への集中と統合

深呼吸の延長として行われる瞑想では、

  • 雑念が浮かんでも、それに囚われず、ただ流す
  • 呼吸、姿勢、空間、音、沈黙…それらをただあるものとして受け止める
  • 思考の背後にある**「純粋な気づき」**に触れる

ここに至ると、「自分」という輪郭が一時的にゆるみ、世界との境界が薄くなるような体験が訪れることがあります。


禅:無為自然の境地へ

禅は、この「思考の手放し」からさらに進み、

  • 思考しないのではなく、思考を超える
  • 「悟り」とは、なにかを知ることではなく、「ただ在ること」そのものに目覚めること

とされます。

深呼吸 → 瞑想 → 禅の行によって、私たちは

「生きる」から「生きていることを感じる」へ、さらに「ただ在る」に至る

という段階を歩むのです。

参考文献

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