力学の学びなおしの記事です.
ここでは力学の対象についてふれます.
力学の対象について
力学は物体の運動――並進,回転,変形など――の記述と,その原因を調べる学問です.
リンゴが落下する運動や,投げた後のボールの運動,天体の運行など,運動は世の中でいたるところにみられます.
そうした運動がどのようにして起こるのか,ということを考察するのが力学であるといえると思います.
物体の運動を考察する際には二つの方向性があります.
一つ目は,物体の運動がどのような一般的な法則(規則・ルール)に従っているかを考察する方向性です.
これは,個々の運動のみかけは異なるようにみえながら,本質的には共通な法則に従って運動している,ということを理解します.
二つ目は,それぞれのケースにおいて運動の法則の適用を考察する方向性です.
一般的・本質的な法則があるとして,それがそれぞれのケースにどのように貫かれているかを理解します.
第一は本論,第二は各論と言えるでしょう.
本論のみを論じるとどうしても抽象的な話になってしまいますが,抽象的な話はイメージしにくいし,それだけを知ってもそれぞれのケースについて適用することにはまた別の意味の困難があるものです.
各論は運動の個々のケースを論じますので理解はしやすいですが,それだけだとそれぞれのケースが個々のバラバラの事柄ととらえやすく,それぞれのケースに貫かれている本質的な事柄を統一的にとらえることが難しくなります.
したがって,それぞれのつながりに目を向けることが大切です.
力学はその対象の違いによっていくつかの種類があります.
物体の並進運動(平行移動)のみを考える場合,物体の重心に物体の全質量が集中した質点として考察することができます(質点の力学).
回転運動を考察する場合には,物体の形や質量密度分布,物体に対する回転軸の位置を考慮に入れなければならないので,物体を変形しない理想的な対象――剛体――として考察します(剛体の力学).
物体の変形を考察する場合には,物体の各構成要素の距離が変化しうるものとして考察します(連続体の力学).
連続体の力学には,液体や気体の流れの学――流体力学――も含まれます.
連続体力学や流体力学では空間内の変位や流速の分布を考察しますので,場の理論であるともいえます.
測定と単位
物体の運動を考察するうえで,測定を行うことが必要です.
物体の位置を直接メジャーなどで測定する方法もありますし,幾何学的な知識を利用して間接的に計算する方法もあります.
測定値はその測定で基準となっている単位とともに記録されます.
長さでは\([m]\)(メートル),時間では\([s]\)(秒),質量では\([kg]\)(キログラム)などがあります.
測定値は一般には単位とともに示されて初めて意味を持ちます.
長さが\(1\),といわれても,それが\(1[m]\)なのか,\(1\)フィートなのか,\(1\)尺なのかわかりません.
測定は,目盛り付きの測定器で行われる場合には読み取れる最小目盛りの10等分まで読みます.
例えば,\(1[mm]\)が最小目盛りである定規の場合は,\(12.4[mm]\)などと読みます.
一つの分野で主に利用される単位の組を単位系といいます.
ふつうは,上記のように基本となる単位として長さ\((L)\)・時間\((T)\)・質量\((M)\)をとります.
重さの単位で重量キログラム\([kgw]\)というのもあり,これは力の単位なので,長さ・時間・力をとることもできます.
つまり,それぞれの分野で便利な単位系を利用するということで,単位系が変われば式の見かけも変わり得るなど,注意すべき点も出てきます.
有効数字
測定値を記載する場合に注意すべきは有効数字です.
\(12.4[mm]\)では有効数字は小数第一位,桁数三桁となります.
厳密にいうと,\(12.4\)という計測値の意味は,\(12.35\)以上\(12.45\)未満,ということになります.
測定の有限性から\(12.4\)という暫定値をもって測定値とする,ということです.
\( 40000 \)という数は,この表記では有効数字五桁です.
この数を有効数字三桁で表す場合は,指数表記を用います.
\( 40000=4.00×10^4 \)(有効数字三桁)
したがって,有効数字三桁で求めるときに,\( 40000 \)と解答してしまうと誤りとなります.
測定値を用いた計算において,有効数字をどのように扱うかというと,❶足し算の場合は、有効数字の末尾の位が最大の数に合わせる,となります.
例えば,\( 25.3+13.74+2.569 \)の場合,\( 25.3 \)の有効数字の位が最大の小数第一位ですので,計算の結果は小数第一位までとします.
\( 25.\boldsymbol{3}+13.74+2.569=41.\boldsymbol{6}09=41.6 \) (小数第一位)
❷掛け算の場合は,有効数字の桁数が最小の数に合わせる,となります.
例えば,\( 25.3×13.74×2.569 \)の場合,\( 25.3 \)が有効数字の桁数が\( 3 \)で最小ですので,計算の結果を有効数字三桁までとします.
\(\boldsymbol{25.3}×13.74×2.569=\boldsymbol{893}.040918=893\)(有効数字三桁)
❸足し算と掛け算の混合の場合は,先に掛け算を計算して,その後足し算を計算します.
\( 41.38×\boldsymbol{3.92}×28.644+\boldsymbol{37.23}×\boldsymbol{8.345}×555.213 \)
\( =73.944 \) (未調整) \(+172495.99001655 \) (未調整)
\( =73.9 \) (有効数字三桁) \(+1.725×10^5 \) (有効数字四桁)
\( =(0.00 \boldsymbol{0}739+1.72 \boldsymbol{5})×10^5 \)
\( =(0.001+1.725) ×10^5 \) (百の位)
\( =1.726×10^5 \)
近似
力学でよく利用される近似式を紹介します.
\( (1+x)^n \unicode{x2252} 1+nx, x \ll 1 \)
\( \sin {x} \unicode{x2252} x, x\ll 1 \)
これらの式は正の数\(x\)が\(1\)より十分小さいときに成り立つのですが,ではどのくらい小さいときか,というのが気になります.
一例として\( (1+x)^2 \unicode{x2252} 1+2x, x \ll 1 \)という近似式で見てみます.
\( x=0.1 \)とすると,\( (1+0.1)^2 =1.1^2 =1.21 \),\( 1+2×0.1 = 1.2 \)であるので,有効数字二桁とすれば等しくなります.
\(0.01\)の誤差であり,誤差率が\( 0.01÷1.21=0.008 \)つまり\(0.8\%\)の誤差です.
近似式の利用は実用的に重要ですが,近似式を利用する際にどのくらいの誤差が出るかを考察することも大事だと思います.
問題
問題1 以下の式を計算せよ.
(1) \( (3.54 + 0.435 ) × 2.748 \)
(2) \( 6.43 × 4.283 × (3.8256 + 1.349) \)
(3) \( 3.28 ÷ (3.195 + 0.2743) \)
(4) \( (4.27 + 0.269) × 5.376 ÷ (7.364 +1.297) \)
問題2 以下の式を近似式\((1+x)^n \unicode{x2252}1+nx, x\ll1\)を用いて近似し,誤差と誤差率を計算せよ.
(1) \( (1 + x)^3, x=0.11 \)
(2) \( (1 + x)^5, x=0.05 \)
解答例
問題1
(1) \((3.54+0.435)×2.748\)
\(=(3.975)×2.748\)
\(=3.98×2.748\) (和の計算は小数第二位まで)
\(=10.93704\)
\(=10.9\) (積の計算は有効数字三桁まで)
(2) \( 6.43 × 4.283 × (3.8256 + 1.349) \)
\(=6.43×4.283×5.1746\)
\(=6.43×4.283×5.175\) (和の計算は小数第三位まで)
\(=142.517\dots\)
\(=143\) (積の計算は有効数字三桁まで)
(3) \( 3.28 ÷ (3.195 + 0.2743) \)
\(=3.28÷3.4693\)
\(=3.28÷3.469\) (和の計算は小数第三位まで)
\(=0.945517\dots\)
\(=0.946\) (商の計算は有効数字三桁まで)
(4) \( (4.27 + 0.269) × 5.376 ÷ (7.364 +1.297) \)
\(=4.539×5.376÷8.661\)
\(=4.54×5.376÷8.661\)
\(=211.3893\dots\)
\(=211\)
問題2 以下の式を近似式\((1+x)^n \unicode{x2252}1+nx, x\ll1\)を用いて近似し,誤差と誤差率を計算せよ.
(1) \( (1 + x)^3, x=0.11 \)
\((1+0.11)^3\)
\(=1.11^3\)
\(=1.367631\)
\(1+3×0.11\)
\(=1.33\)
誤差:\(1.367631-1.33=0.037631\)
誤差率:\(0.037631÷1.367631=0.0275\dots=2.8\%\)
(2) \( (1 + x)^5, x=0.05 \)
\((1+0.05)^5\)
\(=1.05^5\)
\(=1.27628\)
\(1+5×0.05\)
\(=1.25\)
誤差:\(1.27628-1.25=0.02628\)
誤差率:\(0.02628÷1.27628=0.02059\dots=2.1\%\)
参考文献
力学に関する参考文献を以下に挙げます.
戸田盛和著,『物理入門コース・力学』
藤原邦男著,『物理学序論としての力学』